浮世絵は版画ですから、その完成までには、
- 下絵を描く
- 下絵のとおりに版木を彫る
- 版木に色をつけて紙に摺る
- 完 成
というプロセスが必要です。
みなさんも小学校の図工の時間や年賀状などで一度くらいは木版画を経験されたことがあるでしょうから、このへんの手順はよくお分かりですね。
浮世絵の場合、特徴的なのは、この「下絵を描く」、「版木を彫る」、「紙に摺る」という3つのプロセスが、それぞれ専門職として分業化されている、という点です。
各プロセスごとに、「絵を描く専門家」、「版木を彫る専門家」、「紙に摺る専門家」がいて、順に絵師、彫師、摺師と呼ばれています。
絵師
絵師は版元(出版社)からの依頼により下絵を描きます。ただし、何でも好きなものを描いてよいわけではなく、絵の内容に関してはきちんと版元の企画意図に沿ったものを描かなければなりませんでした。描き方にも細かいルールがあって、たとえば役者絵で3人横並びの絵を描く場合、「主役は必ず真ん中に配置しなければならない」といった具合に、その役者の格や歌舞伎の演目内容に応じて、人物の配置から描く大きさ、着物の柄まで、きちんとルールに則って描き分けなければならなかったのです。
逆に、絵を見る側はこうしたルールさえ理解していれば、その歌舞伎の配役から役者同士の力関係まで、1枚の絵からかなりの情報を読み取ることができたわけです。
例1) こういう絵の場合、1枚に二人まとめて描かれているA、Bの役者よりも、一人だけで描かれているCの役者の方が格上となります。また、A、Bのように2名以上の人物が重なって描かれているときには、一般に手前に描かれた人物の方が格上です。
3枚揃いに1名ずつ3名描かれている場合は、通常、中央に来るのが主役(立役者)となります。
例2) この着物の柄は「芝翫縞(しかんじま)」といって、歌舞伎役者の中村芝翫(しかん)が好んで着用したものです。江戸っ子は、この着物の柄を見ればたちどころに「あ、中村芝翫だ」と分かったわけです。(胸の「成駒」も芝翫の屋号である「成駒屋」を表しています。)
浮世絵にはこういう、「この役者を描くときは必ずこの柄で」という「お約束」がけっこうありました。