浮世絵ができるまで(4) - 版下絵 - 浮世絵ぎゃらりぃ
浮世絵ぎゃらりぃ

浮世絵ができるまで(4) - 版下絵

スポンサーリンク

絵師、彫師、摺師それぞれの役割についてご理解いただいたところで、実際に浮世絵が出来上がるまでの手順を追ってみたいと思います。

1.版下絵(原画)

まず、絵師が墨一色で「版下絵」を描きます。 すでに説明したように、絵の内容は依頼人である版元の意向に左右されます。

浮世絵の下絵

サンプルとして取り上げるのは、江戸時代に活躍した三代豊国のこちらの肉筆画。
普通、版下絵というのは墨版作成時に失われてしまうものなので、このように下絵が残っているということは、「何らかの事情でボツになり、出版に至らなかった」もしくは下絵の下絵、つまり企画打ち合わせの段階のラフスケッチのどちらかだと思われます。

画面左下におなじみの豊国の「年の丸」が入っていますね。
しかし改印は入っていません。
ということはつまり、まだ検閲を受ける前の状態ということです。

なかなかこういった直筆の下絵を目にする機会も少ないでしょうから、ぜひじっくりとご覧ください。
下書きとはいえ、みごとな筆運びで、髪の毛など細部もけっこうびっしりと描き込んでいるのが分かります。

この人物(平宗盛/市村羽左衛門)は、上の二人と違って着物の模様までちゃんと描かれていますね。
これは、「この人物に関しては必ずこの柄を使うように」という絵師から彫師への柄指定のメッセージです。
逆に上の二人については、無地で特に指定はありませんので、「彫師におまかせします」という意思表示です。(もしくは、後で文字書きで柄指定の注記を入れるつもりだったのかもしれません。)

さて、3人の人物について、さらに拡大して見てみましょう。

役名は「海老ざこの十」。演じるのは当代の人気役者、市川団十郎です。
髪の生え際は基本的に彫師におまかせの部分なんですが、手抜きせずていねいに描いています。

こちらは「三日月おせん」。演じるのは坂東しうかです。
櫛の目やかんざしも髪の毛同様、さほど手抜きなく描いていますね。

「平宗盛」。演じるのは市村羽左衛門です。着物の柄や髷を結う紐もていねいに描いています。
慣れない人には、こうした浮世絵の人物の顔はどれもみな同じに見えるかもしれませんが、慣れてくるとちゃんと人物ごとに特徴を描き分けているのが分かるようになります。というか、役者絵というのはもともと「似顔絵」ですので、本物に似ていないとダメなんですよね。

さて、絵の方はひとまず置いて、こんどは紙の方に注目してみましょう。

ご覧のようにとても薄い紙が使われます。
これにはちゃんと理由があるのですが、詳しくは次のページでご説明します。

よく見ると、ところどころ切り貼りをしているのがわかりますね。
実は画面右の人物のところにも、上にかぶさるようにラフな筆書きの付箋が貼られていて、絵師と版元の間(もしくは、絵師と文字書き専門の担当者との間)で何度か校正が行われた痕跡が見られます。

浮世絵の下絵といってもいろいろあって、アイデア帳のような落書きに近いものもあれば、出版直前のかなり完成度の高いものまで様々です。
この絵の場合は、何度か校正を重ねるところまではいったものの、そこでボツになってそれ以上には進まなかったようですね。
あるいは単に校正を重ねすぎて下絵として見づらくなったので、これはこのままで別に新たに描きなおしたのかもしれません。

いずれにしても、本来なら版木とともに失われる運命の下絵が、今日まで残されてこのようにして見られることは非常にありがたいことであり、研究資料としても大変貴重なものだといえます。

スポンサーリンク